夏はきっと、思い出くらいがちょうどいい

 Prologue

 

 

 ――プラオデライって、どういう意味?

 

 古くなって色褪せた看板を見上げながら、思い出す。

 それは私が初めてお母さんの花屋『プラオデライ』に来た時の事。その時連れてきてくれた彼に、私は尋ねたのだ。『プラオデライ』とはどんな意味なのか、と。

 

 ――「おしゃべり」って意味!

 

 笑って答えた彼に、きっと私は苦笑したのだろう。その時、自分がどんな顔をしていたのか、わからない。ただ、あまりにも彼に似合うその言葉に、愛しさを感じていた。素直になれない私は、思わず彼を褒めたくなる衝動に耐えていた。

 

 ――なぁ、紫。花にはいろんな言葉があって、言葉にできないことも、花は伝えられるんだ。

 

 あの頃の私は、信じていた。将来この花屋でお手伝いすることになれば私も、この『プラオデライ』の意味を、誰かに笑いながら教えてあげられる日がくるのだろうと。もしかしたら、初めて教えてあげる人は、今お母さんのお腹の中にいる私たちの弟なのかもしれない、そんな淡い夢も抱いて。

 

 ――俺さ、いつかここで紫と、みんなと、花で誰かに言葉を伝える手伝いができたら、すごく幸せだなって思うんだ。

 

 今、彼がいない『プラオデライ』。

 この花屋の名前は、私にとって、ただ思い出を閉じ込めただけの、古ぼけた看板だ。