たくさん話そう!

 

※ふうちゃんとみいちゃんの消滅日記 

 ……もし消滅せずに生き残って人間になったならという世界

 

 

「あー」

声が出る。当たり前か、この体は機械じゃない。温かいもの。
ふむふむ、おもしろいな。この体になって本当にびっくりすることしかない。

体が温かいってこういうことなんだ。
流れる血の赤ってこんな色のことを言うんだな。
空は青くて水は冷たいんだって初めて見て触った。
白いお部屋と埃っぽい空気と本しかなかったあの空間は狭かったんだ。
人は怖い顔の人ばかりじゃないんだ。

知識はあっても知らなかったことばかり。自分の感じてたこともほんとに感じるってこうやるんだなって毎日がおもしろい。毎日いろんなことを知って笑って泣いて驚いて大忙しだ。

 

それに、お母さんとお父さんにお姉ちゃん、妹までできた。
みんなみんな前の私が知っていたモノとは違っていて。

今の私にはみんなのこと知っているって記憶だけはあったけど、お姉ちゃん、ユウだけが前の私が知っていたヒトだった。それともう一人、妹のみいにとってもユウだけが知っているヒトだったみたい。

 

みいと私は仲良しの姉妹だったらしい。でも、私もみいも入ってきた記憶に驚いて同時に高熱を出して寝込んでしまった。私はともかく、みいは小さいから病院に行くことになって、今日が前の記憶がある私がみいと初めて会う日。

 

ユウにも私にもそっくりな二歳くらいの小さな女の子、みいは、私を見て、見て…?そっぽ向いた。なんで?

 

小さな小さな生き物が珍しくて、近寄ったけど、みいは私が近づいてくるのを嫌がった。少し胸のあたりがもやっとして、ユウちゃんにくっついていたくなった。

みいは私がユウちゃんにくっついているのが嫌なのか、あっちにいけって言わんばかりの顔して、「あちいけ!」って言ってきた。なんだこいつ。べーって思いっきり舌を出してやった。

 

 

みいが、人見知りだったのは初日だけ。すぐに私を世話してくれる人か何かと認識したらしく、ユウちゃんがいない時は、私のあとを追ってくるようになった。

 

あれは一般的な二歳児の特徴なんだろうか。トイレにお風呂、お水を飲みに立ち上がるたびに、足下をちょろちょろちょろちょろと子犬のようにまとわりついてくる。

 

しつこいのは後追いだけじゃない。言葉遊びもエンドレスだった。

 

「ふうふうふう、ごじゅってちってゆ? ごじゅだよごじゅ」

「ごじゅ? 分からないよ、何のこと?」

「ごじゅだよ」

「うーん、だから分からないよ。ゴジュってなに?」

「ごじゅだよ」

「……ゴジュね、はい。ゴジュが、どうかしたの?」

「ごじゅってちってゆ? ごじゅだよごじゅ」

 

足首を掴んで窓の向こうまでぶっとばそうかと思った。

 

 

みいがあんまりにもよく分からないことで話しかけてくるからなんで?って思ってた。

成長してからもそれは変わらなくて。私に何度も話しかけてくる。

 

だからつい、聞いてみたら

「だって。ふうちゃんってなんか百面相しながらにこにこしてるんだもん」

って言われた。

百面相…?にこにこしてる、のはそんな気がするけど…。

 

話を聞いているうちに、私はしゃべらないことに慣れすぎて思ったことや感じたこと、笑ったり泣いたり驚いたりしたこと、全部自分の頭の中で処理していたんだって気づいた。普通のヒトは、ううん、私以外のヒトやモノは言葉が話せたもんね。これからは気を付けないと。私は普通のヒトでいたいし、友達だってたくさんほしい。黙ってばっかりのヒトは友達がたくさん作れないんだって何かの研究資料で読んだ気がする。いっぱいいっぱい話さなくっちゃ。

 

 

「ねーユウちゃーん!」

「ユウちゃーーん!」

 

みいと二人でユウちゃんにどーんってするの。最近は真人ってやつも来始めたから一緒にどーんってしてやるんだ。ね、みい。姉妹の約束だもんね。

 

 

たくさん友達出来るかな~。あ、私来月から学校にも行けるんだって!

 

「楽しみだな!」