きみはまた、煙草に火をつける。

 4人のグループLINEで、誰からともなく予定を合わせて集まる。爽やかそうな居酒屋の店員に席に案内されて座る。

「このメンツで飯食いに行くの久々だな」

「そうだな」

「そういや、高校の時はファミレスとか行ったりしてたな」

「あぁ~、ドリンクバーで大はしゃぎしていたな」

 青とやおがな、と言いそうになって慌てて留める。2人も何を言おうとしていたのか理解したようで。場に静寂が落ちる。誰も話すことなく静かになると、思い出してしまうことはたくさんあった。

 4人でファミレスに行った時も、こんな風に席に案内されて、2人ずつ向かい合って座った。バカ話をして、騒いで。時には店員に怒られるくらいに大騒ぎしていた。主に青とやおが。それが今は、ぽっかりと一席だけ空いている。いつも通りの4人席は、どこか広々としていた。

「最近のファミレスには酒もあるんだろ」

「まじか」

 話を逸らすかのように当たり障りのないことを連ねていく。その後は、お酒を飲んで料理の注文をして。机に載る皿は高校の時より少ない。

 食べ盛りだった時に比べると今はもう食べる量も少ないのだろうか。あの頃は、青とやおが競い合うかのように注文し続けて、それを俺と頼人が止めていた。やおが大人になっただけなのかもしれないけれど、止めなくても大丈夫なこの環境が、どこか寂しかった。

 大学生活の中で友達もできて、もう青の死には囚われていないと思っていたけれど、俺たちは今もまだ、青を忘れられずにいる。

 

 

 

 

 

 

 「うっわ、すげえ吸い殻の量だな。タバコはやめたほうがいい。百害あって一利なしだ。」

 ベランダのテーブルに乗る灰皿には、山のようにタバコの吸い殻があった。ここは、頼人の家。高校を卒業してからしばらくして一人暮らしを始めた頼人の住む、アパートの一室だ。さっきの飲み会での彼の様子は完全におかしかった。途中から何か物思いにふけるかのように静かになったり、かと思えば、明るく最近できた友人の話をしてみせたり。そんな彼のことがどうしても気にかかり、弥汰郎は八百枝のことも巻き込み、頼人の家に押しかけたのだった。

「あっ、えっ、と、これは、その、ちがくて」

 慌てる頼人の手からひょいっと一本、煙草を奪い取って口にくわえる。

「なぁ頼人。俺にも火くれ」

「え、あ、あぁ」

 頼人は煙草をくわえたまま、口元に近づいてきた。恐々としながら、煙草の先端をくっつけてくる。頼人が大きく煙草を吸うと、その先端が赤く輝いた。その輝きを吸い取るように、俺は思い切り煙草を吸う。

 かっこつけて思い切りタバコを吸ったからか、煙を肺に入れると喉の奥がキュッ締まるような感覚がして、思わずむせかえってしまった。

「うっ…、おえっ、ゴホッゲホッ!」

「え、大丈夫か?お前な、煙草ダメなら吸うなよ!」

「うわ~、まっず。こんなの人の吸うもんじゃねぇよ」

 ほんの少しだけ、頼人が傷ついたような、そんな顔をした。俺は煙草をもう一度深く吸い込んだ。喉の奥がキュッと締まる。もう、むせ返らなかった。でも、こんなものもう二度と吸わなくていい、そう思う。

「ほら、もう寝よう。口寂しかったら飴でも舐めてろ」

「…あぁ。寝ようか」

 

 

 

 

 

「ん……」

 冷たい風を感じて、俺は目を覚ました。布団をみれば、隣に寝ていたはずの頼人の姿がない。もう一人の隣人はきれいな姿勢で気持ちよさそうに眠っている。どうやら、隙間のできた布団に空気が入り込んで、目が覚めたようだ。

 気怠い体を起こして窓の外を見れば、ベランダに立つ頼人の姿。眩しい朝の空に、彼の羽織るシャツの白が光っている。

「――朝の一服? ヘビースモーカーかよ」

「…おはよう、坂井」

 朝の青空に、紫煙が揺らめいていた。

 振り向いた頼人は、俺を見るなり目を細めてくる。

「昨日も言ったけど、煙草の吸い過ぎは体に良くないからな」

「……うん、なるべく控えるようにするよ」

 困ったように、頼人が笑う。

 風に靡く黒髪が、そのうそ臭い笑顔を際立てた。